この「中小製造業の原価管理のポイント」も今回で最終回となりました。これまでお付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございました。
前回は、コスト低減策の取り掛かりとして、アイデアを出しやすくするための「全バラ検証」という手法についてお話しました。ここでは、全従業員が全バラされた競合製品の比較から、コスト低減案を見つけるというものでしたが、今回はその着眼点について最後にお話したいと思います。
自社と他社の製品を全部バラバラにしたものを見せて、「アイデアを出してよ」といっても、どれだけのアイデアが出てくるかは、日ごろからのコスト改善の着眼点についての意識や教育にかかっていると思います。そこで、まずは会社として、「こういうところに気をつけて検証して下さいね」という指針というか、ポイントを示す必要があります。これは、製品種類によって、企業で独自に作っていく必要があるとは思いますが、自動車や家電等の組立メーカーなどではよく、「8分類30項目」とか、「8分類38項目」といっています。ここではこの8分類について、その考え方を見ていきましょう。
①材料: 歩留りを良くできないか、板厚・肉厚を下げて使用量を減らせないか、リサイクル材・廃材を使用できないか。
②加工設備ライン: 一体成形できないか、同時加工できないか、新技術を適用できないか。
③金型治具: メンテナンスにより、金型寿命をアップできないか。金型の材質を変えて安くできないか。
④エネルギー: 省エネの工夫がされているか。無駄な照明や切削油はないか。
⑤物流: 運搬時の容器・荷姿は良いか、自社でできるものを外作して、余分な物流費がかかっていないか。
⑥品質: 不良品の手直しが多くないか、検査方法・基準は良いか、過剰品質になっていないか。
⑦機能: お客様にとっていらない機能がついていないか。
⑧買い方: 競合見積りを取っているか、海外購入は可能か。
8分類30項目とか38項目と言われるように、それぞれの大分類について、更に細かいポイントを検証していくことになります。主要部品について、開発段階からこれらの着眼点に沿って検証していくことで、ムリムダのない設計が可能となるのです。まずは、これらの着眼点を自社に合わせて改良し、意思統一を図ることがスタートです。
これまで、原価企画という活動の中で、目標値を設定し、その目標に対してどのように活動するかについてお話してきましたが、先日、ある大先生から、「PID制御の考え方を応用すると原価管理がもっと面白くなる」というご意見をいただきました。最後に、このことについて少し考えてみたいと思います。
PID制御というのは、家電製品や自動車の制御などで多く利用されている方法で、目標と実際の違い(偏差)を、速く小さくするためにどのように判断し、行動していけば良いかを決める制御方法です。現在値と目標値の偏差に比例した出力を出す比例動作(P動作)と、その偏差の積分に比例する出力を出す積分動作(I動作)と、偏差の微分に比例した出力を出す微分動作(D動作)の和を出力し、目標値に向かって制御していきます。
目標との差が大きい場合には、D要素の出力が大きくなり、目標に近づくにつれ、偏差に比例した出力を出すP要素を出力、最後に目標と実際が同じになった時点では、それまでの累積値を持っているI要素を出力し、目標に合わせた状態に維持するという仕組みです。こう書くと難しいのですが、人間が「何かをどうにかしたい」という目標に対して、現状、経験、予測の3つを組み合わせてものごとを判断することにより、色々なことをうまく処理しているのと似ています。このPID(現状、経験、予測)を適切に重み付けできる人は適切な判断ができる人ということになります。
このPID制御の考え方を、組織において原価管理を実行することに応用するとどうでしょうか。原価企画で設定する目標は通常、現状のコスト1/2や30%ダウンなどです。この、目標と実際の差が大きい段階では、D要素に当たる活動、つまり設計段階からの大幅なVE活動を実施し、そして偏差が小さくなってきてからは、通常の(狭義の)原価管理の活動を実施していきます。これらの活動の仕組みを電化製品におけるPID制御のように自動的に対処できるほどに会社に根付かせることができれば、目標と実際コストとの乖離をなくし、コスト競争力のある会社が実現できるのではないでしょうか。
最後になりますが、原価企画についての成功のポイントは、「楽しく継続できる」ことが、とても重要だと思います。そのためには、とりわけ中小企業では、トップ自らが先頭に立って、目標の達成にチャレンジし、改善成果を評価することや、従業員へのコスト教育に対する姿勢が重要ではないかと思います。