第2回 実車率の向上『実車率って上げられるの!?』(2)

みなさん、こんにちは!今回は、『実車率』を着眼点として、新たな市場
に参入し、成功した企業の例を見ていきたいと思います。

今回例とするA社は、一般貨物の輸送からスタートし、現在は液体をメイ
ンの荷物としている企業です。液体を輸送するためには、通常、専用の
車両即ちタンクローリーを用いますが、基本的に発便にのみ荷物を積む
ため、実車率は50%となります。そこでA社はタンクローリーに替わる輸送
システムとして、通常のコンテナに液体を載せられ、空の状態では折り
たためる袋状のタンクを独自に開発し、液体輸送に参入しました。

このタンクを用いることで、行きは液体を輸送し、帰りはタンクを折りた
たんで一般貨物を輸送するということが可能になりました。これにより、
A社は一般貨物と液体輸送の両軸で実車率を高める戦略を実行しています。

A社の取組のポイントは、タンクローリーが独占する液体輸送において
常識となっていた「実車率50%以上の確保は難しい」という考え方を冷静に
分析し、それを克服した点です。

A社は、その後順調に成長していましたが、東日本大震災により状況が
一変します。ご存知のとおり、道路や港が大きく被災し、輸送経路の変更を
余儀なくされ、一方で、荷主の要望に応えるために、帰便の手配をせずに
輸送せざるをえない状況になったのです。
弊社が初めてお会いさせていただいたのはこの頃です。

震災という大きな環境変化の中での業況悪化はやむを得ない面もありまし
が、A社の課題として運行管理の状況やルート別の損益について検証する
データが整備できていないことがありました。

そこで、可能な限りデータを集め、運行内容やコストの検証を行ったと
ころ、帰便は傭車(他社からの外注で利率は低い)でもいいので実車運行
することを徹底すること、それでも帰便の荷物を確保できない場合には、
発便を無理に受けないということの必要性を改めて認識することになり
ました。

これを受け、A社では発便の受注量の調整と帰便の荷物の確保を行って
おり、特に、帰便の荷主の新規開拓では、液体輸送の帰便を活用した
輸送を用いることはエコな取組であり、荷主のイメージアップにつながる
ことなどのPRを行っています。こうして、ここ最近は発便と帰便の
バランスの取れた運行ができるようになり、安定した実車率と利益を確保
できるようになっています。

さらに、A社は自社の成功モデルである「一般貨物から液体輸送への参入」、
「実車率の向上」をPRすることで、「液体輸送の業界スタンダードに
していきたい」という目標のもと、同業他社へタンクの製造・販売を
行っています。

また、このタンクはただタンクローリーに代わるだけではなく、
衛生管理面でタンクローリーよりも優れており、このタンクだからこそ
対応できる用途のアイデアも生まれています。
例えば、運送業以外でも防災用の移動可能な飲料貯蔵タンクとして、
自治体等で用いられるように働きかけるなど、運送業界の習慣や常識に
とらわれず、新しいことにチャレンジしています。

A社とは、震災以降、実車率の向上やタンクの販売戦略についての
目線合わせを行っていますが、A社がこのようなタンクを開発し事業展開を
行っているポイントは「実車率向上」という課題に対して常識にとらわれ
ない発想をしていったことだと思っています。

次回からは「荷主の動向を掴む」をテーマにしていきます!

執筆者:
柏野里奈(コンサルタント)
執筆者ご紹介 → http://ct.mgrp.jp/staff/kashino/

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