第13回 外注先の協力体制を構築してクレームを減らしたA社の事例(2)

前回は、A社の不良発生の内容と外注管理担当者の悩みをご紹介しました。
今回は、外注先の協力体制をどのように構築したかをご紹介します。

■Mさんの転機
A社の外注管理担当者であるMさんは、外注先が不良を繰り返すことに
困っていました。そして、改善の提案に外注先T社の社長が耳を傾けて
くれないことに悩んでいました。

そんなMさんに転機が訪れました。ハウスメーカーからの注文が右肩上がり
に増え続け、外注先T社は連日の残業と休日出勤で生産を続ける状況と
なっていました。そこで、A社では新しい外注先K社を探して、Mさんに
その工場の立ち上げ指導を命じたのでした。

新しい外注先K社は、外壁建材の取扱い経験はありますが、ハウスメーカー
向けに膨大な種類の加工をするのは初めての経験です。この業務を始める
ためには設備も導入しなければなりませんし、品質規格や納入仕様を元に、
作業者の教育もしなければなりません。この仕事にMさんは奮い立ちました。

Mさんは、この新しい仕事にこれまでの悩みをぶつけるかのように、
不良の出ない設備や作業方法を考えて、新工場の立ち上げを行いました。
Mさんの検討は、作業の効率を高めるためのレイアウトや歩留まりを
高める作業方法にまで及びました。実はこの検討には、Mさんが外注先
T社の現場で作業を見ながら「どうすれば不良を無くせるか」と
考え続けたことが大きく役に立っていたのです。

新しい外注先K社の加工業務は、Mさんの必死の努力もあり、順調に
立ち上がりました。そうすると徐々に外注先T社への発注が減るように
なりました。

A社はあらかじめ役割分担を決めて、外注先T社にも案内をしていました
ので、混乱はありませんでしたが、やはり外注先T社の社長は仕事の減少
に落ち着いた気持ではいられませんでした。T社の社長は、簡単にできる
はずがないと思っていた加工業務を、思いのほか早く外注先K社が始めた
こと、そして、その立ち上げをMさんが行っていたことにも驚いていま
した。

外注先T社の社長からK社を見学させて欲しいとMさんに連絡があった
のは、ちょうどそんな時でした。

Mさんは、外注先K社の設備や作業現場をくまなく案内し、そして、
生産性を高めるためにどのように考えたか、そして不良が出ないように
どのように工夫したかを丁寧に説明しました。そして、「T社で何度も
現場を見せていただいていたからここまで考えることができました」と
お礼を述べたのです。

外注先T社の対応が変わったのはそれからでした。Mさんの仕事を
見てMさんへの信頼が大きく高まったのです。一方のMさんも、
自分が実際に工場を立ち上げてみて、外注先T社のこれまでの苦労が
良くわかりました。そのことでお互いの立場を本当に理解することが
でき、両者の信頼関係を築くことができたのです。

その後は、T社長の提案もあり、定期的にT社とK社、そして他の地域の
外注先も含めた勉強会を始めることになりました。全員で各工場を順番に
視察して、良いところは学び、そして良くないところは指摘するという
勉強会を行いました。

一通りのすべての外注工場の視察を終えると、それぞれの外注工場で
本格的な不良削減活動が始まりました。Mさんは各社の努力をさらに
促すように、毎月の各社の不良率を集計して優秀な外注先をA社で
表彰するようにしたのです。
その結果、不良率はどんどん下がり、A社はお客様のハウスメーカー
から改善表彰を受けるまでになりました。
そして、Mさんは、いつのまにか各外注工場の経営者や現場責任者
から慕われる存在になっていました。

このような結果を出すことができたのは、外注管理担当者のMさんが
単に「不良を無くして下さい」という態度から、本当に外注先の苦労を
理解し、そして一緒に品質向上と生産性向上をするためにどうすれば
良いかを考えるようになったからです。そうすることで、外注先も
心を開き、協力体制を築くことができたのです。

外注管理のポイントは「自社の工程の延長として考えること」とは
良く言われることですが、本当にその意味を分かっている外注管理
担当者は多くはいません。A社の事例を見てもそのことが良く分かり
ます。

外注先を本気で支援して信頼関係を築き、そして良きパートナーと
なることが、発注する企業にも大きなメリットをもたらすのです。

次回は、「現場観察の重要性」について考えてみましょう。

執筆者:
澤田兼一郎(中小企業診断士)、犬飼あゆみ(中小企業診断士)
執筆者ご紹介 → 

http://ct.mgrp.jp/staff/sawada/

http://ct.mgrp.jp/staff/inukai/

アドバイザー:
MABコンサルティング 中小企業診断士/一級建築士 阿部守先生

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