第16回 本当は難しい生産現場の5S

前回は、生産工程の時間測定で問題を見つけたZ社の事例をご紹介しました。
今回は、5S活動の取り組み方について考えてみましょう。

■生産現場で大切な5S活動
5Sとは、ご存じのように 整理・整頓・清掃・清潔・しつけ の
ことです。一般的に「整理整頓」は、片付けの意味で一体として用いられる
ことが多く、個々の言葉の意味を深く考えることはあまりありません。
しかし、5S活動では以下のように考えます。

整理 : 必要なものと不要なものを分けて不要なものを捨てること
整頓 : 必要な物を決められた場所に置いてすぐ使える状態にして
おくこと
掃除 : 職場をきれいにして気持ちよく働ける環境にすること
清潔 : 整理・整頓・清掃の状態が維持されていること
しつけ: 決められたルールを守りこれを習慣化すること

このように、意味を明確にすることで、活動が行いやすくなるのです。

では、なぜ、多くの生産現場で5S活動が行われているのでしょうか。
それは、5S活動が「当たり前のことが、当たり前にできる職場」づくりに
つながるからです。そしてその結果、(1)安全な職場、(2)快適な職場、
(3)効率的な職場を実現することができるからです。

■難しい生産現場の5S
整理・整頓・清掃・清潔・しつけ と言えば、「当たり前」のことで、
今さら言われなくても、と感じます。
しかし、現実にはこれが出来ていない現場は多くあります。
例えば、5Sというスローガンを掲げているだけの会社、管理者は言うだけで
行動せず社員の自主活動に任されていて実行されていない会社、一時的には
積極的に取り組んだもののマンネリ化している会社などです。

簡単に思える5S活動ですが、「できそうでできない」どころが、
難しいところなのです。5S活動が進まない現場の管理者が良く言う言葉に
「なんで当たり前のことができないのだろう」というのがあります。
その原因は、「人は安易な方向に流されやすいから」であり、
「管理者自身が本気になっていない」からです。

5S活動が進まない現場では、以下のような意識が隠れていることがよく
あります。

1.いまさら「整理・整頓」なんてやっていられない
2.どうせすぐに汚くなるからやってもムダ
3.「整理・整頓」しても生産量が増える訳ではない
  (生産の作業をした方が良い)
4.整理されてなくても俺には必要なものの置き場が分かるから困らない
5.他の仕事で忙しくて「整理・整頓」をやっている時間がない

これでは、5S活動は進みません。「5S活動を行う」と宣言したのに
この状態では、見て見ぬふりをする現場、問題を叱れない現場になってしまい
ます。これでは、取り組む意味がありません。
このような意識は、以下のような考え方と同じことです。

1.私は、5Sの効果を認めませんし、大事だとも思っていません
2.私は、ルールを守りません
3.仕事はきちんとやって成果も出していますから余計なことはしなくても
 良いのです
4.自分さえ仕事が出来れば良いので、他の人の仕事のしやすさは気にしま
 せん
5.今後も、ものを探す無駄な時間を使い続け、まわりにも不快な環境を
 与え続けます

これでは安全・快適・効率的な現場になりません。こうならないためには、
現場の全員に対して、「会社が5S活動を行う意義」を理解してもらう
ことが大切です。

■5S活動定着のポイント
5S活動を定着させるためには、管理者自らが率先して5Sを行う、
あきらめずに継続する、組織全体として良い習慣づくりを目指す、
ルール違反などの行動は相互に注意しあって改善する ということが
必要です。5S活動は掛け声だけでは進みません。
管理者があきらめた時点で活動は終わってしまうのです。

本来、「当たり前」であるはずの5Sができていない職場では、
「決められたルールが守られない」訳ですから、どんなに新しい
経営戦略や改善活動に取り組んでもきちんと実行することができません。
ですから、改善効果を上げることができないのです。
常に原点にかえり、基本を徹底することが大切です。

また、5S活動は生産現場だけのものではありません。事務作業や
店舗作業などにおいても基本となる大切な活動です。

次回は、5S活動を定着させたKS社の事例をご紹介します。

執筆者:
澤田兼一郎(中小企業診断士)、犬飼あゆみ(中小企業診断士)
執筆者ご紹介 → 
http://ct.mgrp.jp/staff/sawada/
http://ct.mgrp.jp/staff/inukai/

アドバイザー:
MABコンサルティング 中小企業診断士/一級建築士 阿部守先生

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