前回はボトルネックに着目した生産性改善の手順をご紹介しました。
今回はボトルネックを改善して生産性を大幅に向上させた事例をご紹介します。
■S社の概要
S社は、医療機器の部品を製造しているメーカーで、パート従業員を合わせて
150名規模の会社です。製品はすべて受注生産ですが、ほとんどがリピートオ
ーダーです。製品は、非常に小さいものが多く、1つのロットが大きいのが特
徴です。1オーダーで、数十万個~数百万個の注文もあり、海外への出荷も多
くあります。
工程は、
材料の受入検査⇒切断⇒加工⇒研磨⇒化学処理⇒洗浄⇒検査⇒出荷
が基本的な流れです。
技術的なポイントは、研磨工程にあり、この出来栄えが製品の性能を大きく左
右します。
S社の問題は、納期遅れが頻発しており、業務担当者が常に納期調整に追われ
ていることでした。そこで、社長は、ボトルネックの改善によって生産能力を
高めることができるのではないか、そして納期遅れが改善できるのではないか、
と考えました。
■真のボトルネックは
幹部と各工程のリーダーを集めた会議で、ボトルネック活用の重要性を説明し
た後、「ところで、ボトルネックはどこですか」と尋ねました。社長を含めて多
くのメンバーが「研磨工程」を挙げました。確かに、研磨工程の前には仕掛品
が多く溜まっています。
しかし、いろんな話を伺っていると、「あれ?」と感じる問題が出てきました。
・ 研磨工程の設備は高価であり、技術的なポイントでもあるため、研磨工程の
稼働率を高くすることが原価を下げることにつながると考えている。
・ 納期遅れが発生しているのに、研磨工程の稼働率を重視するため、急ぎの製
品が優先的に生産されていない。
・ 検査で不合格になり、再洗浄を行うロットが多く発生する。
工場全体ではなく、研磨工程での生産性を高めるために、仕掛を多く溜め、研
磨工程の都合で生産を行っていることが分かってきました。
検査工程は出荷係から優先出荷品の検査を急かされるために、前工程である洗
浄工程に対して優先的に欲しい製品を督促します。そのために、洗浄工程では、
前工程から流れてきた製品と順番の入替が生じていました。このため、切断や
研磨を終えてから洗浄するまでに日数を多く経過するロットがあり、汚れが固
着して洗浄に予定以上の時間がかかったり、検査で不合格となって再洗浄にな
るものが発生する、というような状況でした。
そこで、もう一度、部分最適ではなく全体最適が重要であることを説明し、各
工程の生産能力と生産数量を、全員で確認してみました。すると、ボトルネッ
クは、研磨工程ではなく洗浄工程であることが分かったのです。
■ボトルネックの活用
ボトルネックである洗浄工程の能力を最大限に活用するために、S社では、次
のような対策を行いました。
・ お昼の休憩を交代制にして、洗浄設備の稼働時間を長くする。
・ 洗浄機のレイアウトを変更して作業者の移動距離を短くし、作業効率を高め
る。
・ 休止していた古い洗浄設備を活用して能力を高める。
・ 洗浄工程で、製品の優先順位を変えなくて済むように、前工程から出荷順に
持ってくる。
・ 汚れが固着することをできるだけ防ぐように、各工程での滞留時間を短く
(仕掛を少なく)する。
この結果、洗浄工程の能力が高まるとともに、工場全体の生産の流れがスムー
ズになりました。その結果、工場全体で生産能力の30%アップを実現すること
ができ、納期遅れも大幅に改善することができました。
S社の問題は、高価な設備で技術的なポイントでもある研磨工程をボトルネッ
クだと思い込んでいたことでした。
真のボトルネックを見つけると、このように大きな改善につなげることができ
ます。みなさんの工場でも思い込みが生じていないか、もう一度、確認してみ
ませんか。
次回は、「生産計画の立て方」について考えてみましょう。
執筆者:
澤田兼一郎(中小企業診断士)、犬飼あゆみ(中小企業診断士)
執筆者ご紹介 →
http://ct.mgrp.jp/staff/sawada/
http://ct.mgrp.jp/staff/inukai/
アドバイザー:
MABコンサルティング 中小企業診断士/一級建築士 阿部守先生